私がカノアに住むようになってから16年。
こちらに住み始めたばかりの時、
一緒に住んでいたエヴァさんと共に週に2回、
コーラスグループに通っていました。
レシーフェで暮らしていた彼らは、
奥さんの生まれ故郷であるこの地に、
退職後に移住。
ソプラノ歌手の奥さん。
指揮者である彼は哲学と言語の大学教授。
その傍ら、
コーラスグループで指揮をしていたそうです。

音楽文化といったものにあまりなじみのないこの地において、
彼らの目指しているものは、
道楽ではなく、
まさに、
第三の人生を歩むための、
新たな試みでした。

ブラジルでの暮らしの中で自分でも気づかなかった、
私の心の奥で必要としていた欠片が、
彼らのコーラスグループに加わったことで、
満たされた。
それほど私にとっては大きなものでした。
結婚し、
妊娠し、
出産し・・・
いつでも変わらず週2回の練習に参加していました。

指揮者である彼が病気の治療のため、
レシーフェに頻繁に帰るようになり、
自然と消滅してしまったこのコーラスグループ。

今日、
久しぶりに彼らの家で、
コーヒーブレイクを楽しみました。
先週80歳の誕生日を迎えた奥さん。
今でもレシーフェのコーラスグループの一員として歌っているそうです。
指揮者だった彼は、
数年前に認知症を患いました。
が、
私を見た途端、

「まゆみ、元気だったか?」

と、
強く抱擁をしてくれました。
覚えていてくれた。
そして、
その笑顔とあたたかい気持ちに涙が出そうになりました。
相変わらず素敵な夫婦との会話。
話は尽きませんでした。
今度は大きくなった娘二人を連れて、
会いに行こう。
あの時、
お腹にいた娘。
あの時、
ベビーカーの中で私たちの歌声を聞いていた娘。
今では小学6年生。
私の人生の欠片を、
ここでの生活をつなぎとめてくれたその破片を、
娘たちに伝えていかなければ。